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くしゃみしたらヘッドホンはずれた
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しようかなと思ったけど読んだ本の何をどう語れば良いんだろう。
とりあえずこないだ読み終わったのを二冊ほど。

妖女サイベルの呼び声
(パトリシア・A・マキリップ ハヤカワ文庫)

ファンタジー界では超有名と聞いて。
ずっと読みたくて本屋を回ったのにびっくりする程置いてなかった本。世界幻想文学大賞第一回受賞作品だそうです。ちなみにこれを原作にして「陰陽師」の岡田玲子が「calling」という漫画を描いてるらしい。そっちはまだ未読ですが、うーん。らしすぎる。

とりあえず今までファンタジーと名のつくものからは極端に距離を取って生きて来た事をちょっと反省するくらいの作品であったことを言っておこう。面白かった。隙の無い世界観と、威厳を感じさせる文章。作者はこれを書いた時、若干25歳であったと聞いてこれまた驚愕した。白い髭をたくわえた爺さんが、本のタワーに囲まれて羊皮紙にインクで書いたんじゃないかと思わせるような重厚感を持つ物語だったからだ。

主人公のサイベルには、呼びたいものを自由に呼び寄せる事の出来る能力があった。それはその世界で魔術と呼ばれるもので、もちろん呼びやすい者もいれば呼びにくい者もいる。それは個々人(呼び寄せる事が出来るのは人間には限らないが)の持つ能力によりけりで、魔術に秀でた者を呼び寄せるには当然それなりの力が必要となる。で、サイベルは非常に優れた能力を持った魔術師であった。
サイベルの周囲には過去に呼び寄せた魔物たちが集っており、ともに生活を営んでいる。その魔物たちも、サイベルの能力を象徴するかのごとく 一筋縄では行かない、伝説を持った猛者たちばかりなのだが、この物語の凄いところは、それらの魔物がいかに恐ろしく、世に知られた魔物であるかを三行から四行で説明しており、なおかつその説明が簡潔でありながら説得力を持っているところである。
サイベルを尋ねてくるエルドウォルドの騎士、コーレンとの対話で、それらの伝説が明らかになる箇所があるのでそこを引用する。

コーレンは猪を見つめ、懸命に言葉を捜した。「サイリン」彼は呟いた。「サイリンだ。あなたのものになっているとは」彼は再び絶句した。荒い呼吸が開いたままの口から洩れる。彼は記憶の糸をたぐりたぐり、ゆっくりとしゃべった。「ランリールの領主――ロンダーが捕らえたのが――猪のサイリンだった――それまで――誰も捕らえたことのなかったサイリン――逃げ隠れの巧みなサイリン――謎の番人――ロンダーは、サイリンに、いのちを捨てるか、それともこの世の叡知のすべてを引き渡すかと迫った。するとサイリンは、ロンダーの足もとにあった岩を根こそぎにした。ロンダーは、そんなものには一文の値打ちもないといって、馬で去った。そしてなおもあきらめずに……」
「どうしてその話を知っているのです?」サイベルは驚いてたずねた。「エルドウォルドで起きた話ではないのに」


文中には、ランリールも、領主ロンダーも、全く何の説明もなく登場する。その伝説がいかに有名な話か、などにも 何の説明もなされない。ただサイベルの反応から、異国の騎士が知っているにしては古すぎる伝説であること、その古すぎる伝説を知っているコーレンが、物語での世界では特異な存在であることが分かるだけだ。

彼は、猫属の二頭が、館の向こうから、闇の中をゆるやかな足取りでこっちへ近づいてくるのを見守った。彼が唾を呑む音をサイベルは聞いた。タムローンが腕の中でもがいたが、コーレンは動かなかった。猫のモライアがやってきて、黒い、平らな頭をサイベルの掌に軽く押し付けた。それから彼女の足もとにごろりと寝そべって、磨きあげた宝石のような歯をコーレンに見せて、あんぐりとあくびをした。
「モライア………〈夜の貴婦人〉だ、魔術師タックに、彼が幽閉されていた扉のない塔を開く呪文を教えた……こっちの――ライオンは知らない――」黄金の滴りとも見まがう眼を持ったライオンのギュールスは、コーレンの足もとを一めぐりすると、つややかな毛並みの下にゆったりと筋肉を波打たせてコーレンの正面に蹲った。コーレンは、あわてて頭を振った。「いや待てよ――〈南の砂漠〉にライオンが一頭いたな。貴人の宮廷につぎつぎと住まいを移し、知恵をほどこし、贅沢な肉を糧とし、気の赴くままにその折々の貴族の紋章のついた首輪をつけ……ギュールスだ」


要するに、説明が殆ど無いのである。魔物たちに関する――またはそれ以外の事柄に関する伝説や物語が、「当然あるもの」のように不意に文中に登場し、そして終わる。読者たちにはそれ以外の情報が全く与えられないにも関わらず、それらが一定の説得力を持って読者たちに受け入れられる所以は、ディティールの細かさと気品を持った文章の故か。或いはこれらの寓話一つ一つが、非常に良く出来た神話のパスティーシュなのだ。

まあ 説明しすぎて失敗してる類のものは世に溢れてるし、いちいち指摘せずとも皆さん分かってるだろうから言わない。でもここらへん――要するに「説明を省く」ことによって逆に広がりを見せる芳醇な世界観、というのが この作品の魅力の一つである事は疑いようの無い事だ。一の沈黙が十の描写に勝るってのは、小説に限らずよくあることである。

それと、個人的に素晴らしいと思った一節があったので再び引用する。

「きみにとって必要な人はロックやセネスだ、ぼく以上にね。サイベル、ぼくはきみのやっていることがわからないんだ。きみの正体がわかったからといって、ぼくがきみのことを恐れるだろうか?愛さなくなるだろうか?」
「ええ」サイベルはささやくようにいった。「いまのあなたのように」
 コーレンはいきなりサイベルを掴み、揺さぶり、苛んだ。「そんなことがあるものか!愛とはいったいなんだと思っているんだ――大声をあげたり、打ったりするたびに驚いて心から飛び立つ小鳥のようなものだとでも思っているのか?


かっこいい!!大声をあげたり打ったりするたびに驚いて心から飛び立つ小鳥!!この表現!
もー理屈ぬきでキャーってなった。良いわあ…これ良いわあ…

まあ、そういった具合で。なかなか良い読書体験をしたので近所のファンタジスタ(ファンタジー好き)木登りヤギにこのことを話したらちょうど彼女は同じ作者の「ホアズブレスの竜追い人」についてのエントリを上梓している最中(やや脚色)だったということで二度びっくり。風力7を監視してたらそのうち何か書いてくれると思いますので 皆さんで日参いたしましょう。

あ、もう一冊あったんだけど、まあ次の機会に。
今読んでるのも何か、凄そうですよ。期待しつつ読み進めております。

 



 

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