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くしゃみしたらヘッドホンはずれた
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うーん持ち帰ってきた仕事もろくに手をつけないままこれを書くつもりじゃあなかったんだけどひと段落しないと集中もできなさそうなので仕方ない。先にやる。

「刺青の恋」は、4編の話で構成されている。1話『僕のカタギ君』の潟木、2話『ラナンキュラスの犬』の武藤、3話『狂い鮫とシンデレラ』の埜上と、全ての話に刺青を入れたヤクザが登場する。
その3話はそれぞれ独立した物語のようでありながら少しずつ人や時間が重なり合って出来ていて、それら全ての種明かし―結末と言うのか―を明らかにするのが第4話『みんなの唄』(書き下ろし)。
エピソードとして強いのは断然『ラナンキュラスの犬』だと個人的には思うんだが(まあ、これはかなりストーリーも設定もオーソドックスなお約束だからってのもあるが)あくまでメインは1話に出てきた潟木と恋人の久保田みたい。


阿仁谷ユイジという人を私が知ったのは、メジャーデビューする前に立ちあげてたサイトで漫画をアップしてて それを読んでいたから。
最近の絵描きさんでは珍しくないけども、この人の絵は「デジタル映え」というのだろうか、PCのブラウザで見るとその絵の魅力がぐんと増して見えるタイプの絵描きさんだと思う。
ただそういう絵は不思議と、紙媒体に乗っかって出てくると何となく迫力に欠けて見えたりするものだ。見た感じだと、デジタルの世界では紙原稿より多少ラフでも許されるみたい。(私だけかもしんないけど。)
絵自体もかなり独特だし、かなり好き嫌いが分かれるタイプの作家さんだろうなと思っていた。でも私はこの人の絵にあふれるシズル感というか、濡れた感じがどうも好きで、何となくちょくちょくサイトを見ていたら、メジャーデビューが決まったという流れ。あれやこれやで、現在は4冊程度出ているようだ。

私はこの人の作品の、いかにも同人な、あるいはいかにも無料で読める感じの、ごちゃっとしたジャンクっぽさ(ちっちゃい書き込みとか)が好きだったので、商売用に整えられた全く別物の漫画なら金出して読む気もあんまり無かった。といって、オンラインに載っていた頃と全く同じテンションで、全く同じ姿勢で描かれた単行本ならなおのこと読みたくなかった。それなら今まで通りオンラインで発表してりゃ良い事だからだ。
それが今回なぜこの人の漫画を買って、読んでみよう。と思ったかというと
ネット上での評判が上々だったのと、それがヤクザを扱った作品群だったから。


…私は「レザボア・ドッグス」や「ゴッド・ファーザー」のような、マフィア、ヤクザ、ギャングの持つ義侠的な絆にどうやら弱いようなのである。
…いや分かってるよこんなのはただのドリームであって実際のヤクザとかマフィアってのは人を殺したり脅したりするとても悪い人たちでそんな人らの間に絆なんてあんのかどうなのかわかんないし結局マンガや本や映画でかっこよく描かれてるってそれだけの話であって要するにただの絵空事であり
でも分かってても弱いのは事実なのでどうにもなるまい。てかこれこそが萌えか?
…ヤクザ萌えっていかにも平和ボケみたいで嫌だな。
でも私僕たま(「僕の地球を守って」)でも既に田村が好きだったんだよなあ。
もう仕方ないなこれは。
あと「ヤクザの坊(ぼん と読む)と教育係兼若頭」という間柄にも弱い。
何でって聞かれてもこれはもう遺伝子だ、としか。


あとこの漫画に出てくる 武藤、というキャラのビジュアルが好みだったというのもある。
まあこの武藤ってのがいかにも私の好きそうなゴツいコワモテのおっさんで。
ただこの人の絵柄ちょっと目が大きいので、武藤ももうちょっと糸目でも良かったなあなんて勝手に思ってる次第。


…んでまあ満を持して読んだんだけど。
うーーーーーーーーーーん 

以下でネタばれ。読む人はクリック禁止


  




第4話 「みんなの唄」 あらすじ



ある街角。
武藤と坊が買い物をしている様子が描かれる。
不慣れな料理も二人で力を合わせて
眠る時はひとつの布団で眠る。
組織からの逃亡が成功し、ひっそりとささやかながら幸せな日常を送っているようだ。

その一方で、久保田は刑務所の前で潟木を待っていた。
その日は彼の出所日だったらしい。
自分を刑務所にぶちこんだ張本人の久保田が待っているのを見て潟木は恨み言を言うが、
結局何のかんのと言いながら、彼らは同じ部屋に帰っていく。

「…武藤さんもどうせ捕まえたんだろ」
「仕事だもん」

潟木はかつて自分の上司であった武藤も捕まったと聞いて久保田を罵るが
久保田は困ったような笑顔でそう返し、ごめんね。と謝った。
潟木は何も言えなくなる。
久保田は潟木に 明日会わせたい人がいると告げる。



夜、坊は眠っている武藤を起こして耳を押さえ、言う。
「こう耳鳴りがうるさくちゃ眠れやしない」

ピー ピー ピー と
坊を悩ませる耳鳴りが画面のそこここに
きわめて乱雑に描かれている

武藤は彼を優しくあやすように撫でてやりながら
彼の弱弱しい声を聞く。
武藤を自分の事情に巻き込んでよかったのか
組織から一緒に武藤を連れ出してしまってよかったのか
実はずっと、そう思い悩んでいた坊に笑いかける

ピー ピー ピー ピー

「有馬がいるから 俺は生きていけるのに」

ピー ピー ピー ピー

激しくなる耳鳴りの中で、坊は武藤の声を聞きとめて 驚いた顔を見せた後、じんわりと笑う。

「お前」

ピー ピー ピー ピー ピー 

「僕の名前 覚えていたんだな」


ピー ピー ピー ピー ピー 

耳鳴りはいよいよひどくなった。




次の日、久保田に連れられて潟木が訪れた病院には、
集中治療室で無数のコードに繋がれて、未だ覚めない夢を見る
坊の姿があった。
生命維持装置が ピー ピー ピー ピー と音を立てている。
武藤は逃亡当日潟木に手引きを頼んでいたのだが
彼はまさにその日久保田により逮捕され、警察に連行されたので
武藤と坊はやむをえず二人だけで逃げ出したが
結局逃げ切れず組織の者に潰されたのだ。

武藤は即死。坊はその日から意識が戻らないが
重要参考人なので、植物状態で生かされている状態なのだった。
泣き崩れ、慟哭をあげて 久保田を罵倒する潟木を
久保田は後ろから抱きすくめ 一緒に罪を背負って生きよう、と告げる。





夢オチかーい!!

ってことですよね。


件の最終話は書き下ろしらしく、人によっては「これを読まなきゃ連作が終わらない!」という意見の方もちらほらいらっしゃいましたが、私はむしろ蛇足であるように感じました。
カタギ君が10時に間に合わず、武藤と坊が敵対側に捕まる事は普通に読んでりゃ分かる訳だし。あの話の雰囲気からいって、何もかも素晴らしいハッピーエンドにはならないだろう。ってのは普通に感じ取れるんだから、わざわざ本当に悲惨な最後を絵にして描いて見せずとも…と思った。
どうしても描くってんなら結末を変えろとまでは言わないけどもう少し角度を変えた観点から描くか、時間を戻すか飛ばすかして欲しかったかなあ。

この話は、まあ簡単に言うと時間経過を逆手に取ったトリッキーな連作で、映画で例えるなら「パルプ・フィクション」のような、ある種のジグソー・パズル的な楽しみも まああるっちゃあるのかな。と思う。
でもそういう作品として完成させるなら、もうひとひねりいるんじゃないかと思った。
あの結末じゃあ「当然」だよ。
もう一つの偶然的要素があって、本来ならば助からなかった武藤と坊が助かる、なら面白かったんじゃないかと。
まあでもあの結末はたぶん描いてる人の頭の中にずっとあった結末だろうから、それを揺り動かせとは言わないけど。それにしてもちょっと悲惨な要素を足しすぎているような。
HIVネタは正直いらなかったんじゃないかと…


まあでも、坊が見る夢の中で、布団に寝転がって片目細めてる武藤はこの一冊の中でのベスト・ムトニスト(んだそりゃ)だし。なきゃ無いでさみしいのかもな。とは思う。あの夢がなかったら本当にただの辛い結末だ!いや、夢があろうとなかろうと辛いんだけど。


でもやっぱり私には武藤と坊に訪れた結末それ自体が、潟木と久保田の絆を深める為だけに用意された舞台装置にしか思えないんだよなー。
脇役でも良いから、最終的には死んでも植物人間になってしまっていても良いから、せめて人間が死ぬか生きるかの時に、自分の身を挺してでも守るべき存在がある時に、どれだけの悪あがきをするか 彼らがいかにして生き抜こうとしたか は その欠片でもちょっとだけでも描いて欲しかったと思います。
そこらへんの描写が無かったので、ちょっと残念。
あれじゃあ武藤がただの見掛け倒しではないか…


でもあんまりこの人が生命力とか、悪あがきとか、そういうのを描きたい訳じゃない人なのかもしんないなあ。
「ヤクザモノ」と一言に言っても、作者の描きたいものと読者の読みたいものが一緒とは限らんもんね。

とはいえ、漫画を描こう。という意欲は読んでいて凄く感じたので、またこっち(任侠)方向の単行本が出たらぜひ読んでみたい。ただ結構描いてる本人が意図的に「個性的」な作品を描こうとしてるんだなってのがちょっと匂う。読む人によっては鼻につくかもなあ…でも私こういう作風ほんと好きなんだよね。かわかみじゅんこにも似てると思う。絵はどちらかというと 雁須磨子みたいだけど。

癖のあるお話が苦手な人でも、同時収録の「はるのこい」「ゆめのあんない」は無理なく行けるのではなかろうか。口当たり爽やかで読みやすくて可愛くて、なかなか良かったです。


阿仁谷ユイジ 「刺青の男」  ★★

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