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くしゃみしたらヘッドホンはずれた
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以前にも書いたけど、韓国映画には日本映画やハリウッド映画に無いパワーを感じる。

それは感覚で言えば「痛み」に近い。

じくじくと疼く腫れもののような。血と膿をはらんだにきびのような。
非常にリアルな、隣人のような痛みである。

それと比較して言えば、例えばハリウッド映画(とひとくくりにするのも何か違うんだけど)が観客に与える痛みはマフィアにナイフで刺されるような、ボクサーにアッパー食らうような、レスラーにバックドロップ決められるような、そんな痛みである。音にするなら「バチーン」て感じの、明確でドラマチックな痛み。


でもそれらの痛みはある程度、我々の生活からはかけはなれているとも言える。私達はマフィアに刺されたり、ボクサーにアッパーかまされたり、レスラーにバックドロップ決められたりは、あまりしない。
まあ、だからこそそれらの物語が映画になるんだけど。

そんなこんなで「母なる証明」観て来た。
以下あらすじのようなもの

子供のまま大人になったような青年、トジュン。そんな彼を溺愛する母。二人きりの家族は、貧しいながらも平穏に暮らしていたが、女子高生殺人事件の犯人としてトジュンが逮捕された事で生活は一変する。母は息子を救うために真犯人を探し始めるが…


この映画を観た後偶然監督とキャストのインタビューを見る機会があって初めて気付いたんだけど、この映画の主人公には名前が無い。
主人公というのはつまり殺人容疑で逮捕された息子トジュンを救うため真犯人を自分の手で探しだそうと奔走する母親なんだけど、劇中で誰一人として彼女の名前を呼ばない。
言われてみればそうだった。観ている時は全く気付かなかった。おお恥ずかしい。


彼女に名前を付けなかったのは、母であるという事以外の意味付けを削ぎ落とす為だ、と監督は語っていた。


要するにこの映画の主人公は、誰かの母ではなく、母という存在の象徴として描かれていて、彼女はトジュンの母でありながら、同時に観客一人一人の母でもあるのだ。
で、我々はもう逃れようの無い、狂おしいまでの「母の愛」をまざまざと見せ付けられる訳である。


物語として、決して腑に落ちる話ではない。というか恐らく監督は意図的に物語る事を放棄している。何故なら物語にはオチがあって、それによって物語は終わるからだ。


しかし母の愛に終わりはないのである。
いくら注いでも枯れはしないのである。
それこそが、この映画が紛れもない悲劇である事の根本的な原因なのだ。


主演のキム・ヘジャは「韓国の母」と呼ばれる程の国民的女優であるという。
日本で言えば、市原悦子みたいなもんだろうか。違うか。吉永小百合か。もっと違うか。

そういう、いわゆる「母」という極めて健全なパブリックイメージを有している女優が、ああいう母親、なんと言ったら良いか、つまり「怖い母」を演じるというのは、想像するだに結構ショッキングなのではないかと思う。さらにその衝撃は決して衝撃のための衝撃ではなく、いわば母の愛という揺ぎ無い感情が存在する以上、決して否定は出来ないもの。下手したらそれは当然の帰結とさえ言えるのではないかと観客に思わせるほどの真っ当なエンディング、が与える衝撃。なのである。

その先にあるのが幸せであろうとなかろうと、注がずにいられない愛がある。しかし幸せに通じない愛は、呪いにさえ似てはいないだろうか。


観終わった後、考えずにいられない傑作。物凄くオススメ。


この後勢いで「殺人の追憶」も観たのでなんか書くかもしれない。
でもその前に「グエムル―漢江の怪物」も観たいんだよなー。


関連エントリ

殺人の追憶は未レビュー。
化け物は化け物 「グエムル 漢江の怪物」

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