くしゃみしたらヘッドホンはずれた
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日本ではDVDスルーの作品。
クリスチャンベール主演って実はあんまり集客効果無いんだろうか…
「パブリックエネミーズ」もジョニデとチャンベ共演!とかはしゃいでたらCMや宣伝ではことごとくチャンベ無視られてて泣いた。嘘ワラタ。
ちなみに本作品の真面目で面白い評はやもりさんのブログに載ってるのでそっちを参照してくんちぇ!ストーブ貸してくんちぇ!(フラガール)
あらすじ。
ベトナム戦争下のラオス。機密指令によって出陣したパイロット・ディーターは敵の狙撃を受けて墜落してしまう。あえなく捕まってしまい捕虜となるが、彼は同じ捕虜仲間の男達を焚き付けて全員での脱走を試みた。
昔松本大洋が、名作「花男」に関してインタビューを受けていたのを読んだ。
曰く、本当は花男を「すれ違う奴を片っ端からバットで殴るような危険人物にしようと思っていた」らしい。
花男は30を過ぎてもなお「巨人の4番になる」という夢を追い続けている男だ。彼には嫁も息子もいるが、それらの事は彼にとって何らの障害にもなりえない。
妻子とは別居していて、仕事もしていない。する事といえばトレーニングと、所属している野球チームの試合だけだ。ちなみに試合に勝つとメンバーから賞金と食料品が贈答されるので、それで生活している(息子の茂雄に「要するに恵んでもらってんのね」と言われてふくれていた)。
松本大洋は、「夢を見てる奴なんて、端から見ればただの迷惑な奴ですよ。って事を言いたくて花男を描いた」と言っていた。
確かになあ。と思う。
その点に関しては「花男」と本作にはかなり似通った視点を見い出す事が出来そうだ。
ディーターはもうとにかく飛行機に乗って空を飛びたくて仕方ないという男で、脱走を計画してから実行する間も、ひたすらその事 つまり再び飛行機に乗って空を飛ぶ事、だけを考えている。
花男にとっての野球が、ディーターにとっての飛行機なのだ。
そしてディーターは、松本大洋が描きかけて結局やめた「夢見てる奴はただのはた迷惑な危険人物」というテーマを見事に体現する事となる。
捕虜仲間の中に、ディーターが脱走計画を立て始めた当初から脱走自体に乗り気ではない男がいた。
彼は自分が不参加であるというだけでなく、ディーターに脱走をやめろと何度も言った。
当然だ。
よしんば脱走が成功しても、ベトナム兵達は残った者達を拷問するに決まっている。
今までで既に相当酷い仕打ちを受けているんだから、この上となると何をされるか分かったもんじゃない。
でもディーターは聞かない。
これも当然だ。
再び飛行機に乗る為には此処から生きて出なければならないからだ。
だから反対する彼をかなり強引に煽って、ついに彼を脱走計画に引き入れる。
この後、辛くも脱走は成る。
しかし悲劇はそこからだ。
脱走に反対していた男は、ディーターに問う。
「どこに行けば良い?どうすれば良いんだ?」
彼はディーターよりも長い間捕虜として生活していた。
生きてそこから脱出する事を望まなかった訳では無いだろう。しかしディーターの殆んど脅迫に似た誘いに乗り(もしくは乗らざるを得ず)、いざ脱出に成功した時、彼の前には何らの道標も見えはしなかった。
当然だ。
捕虜として生き延びるには、捕虜でなかった頃の生活をある程度忘れなければとても耐えられはしないだろう。
長い時間をかけて、過酷な状況に、いわば暴力的不自由という闇に心身を慣らしてきた男に、ディーターは突然自由という直射日光を浴びせたのだ。
彼の目は一時的に光で潰れた。
だから主導者であるディーターに問うたのだ。
次は何処に行けば良いんだ?と。
しかしディーターはそこで彼を捨てる。
「お前が何処に行くかは知らない。」
そう言って踵を返す。
こ、この、この人でなし!とまっとうな人間を相手にするなら言うべきところだが残念ながらディーターはまっとうな人間じゃないのでした。ちゃんちゃん。
しかし物語はディーターの異常さをはっきりと観客に説明しない。
ただ理解させる。
その上でこの作品を、ディーターにとっての完璧なハッピーエンディングで決着させるのだ。
異常者の望む世界=狂った世界である。
しかも終わりだけ見ると物凄いまっとうなアメリカーンなハリウッド映画なところに監督の悪意が見える。考えてみれば、最初からこの物語はいびつだったのだ。
端的に言うと、ディーターが怖い。特に目が。
戦争に赴く時、飛行機に乗り込む前、墜落して現地人に捕まった後でさえも、ディーターは前向きに、希望を失わず常にチャンスを掴む為の努力を惜しまない。
ように見える。
でもやっぱり変なのだ。
ディーターはいつも何処か遠くを見るような、向かい合う人を透かしてその向こうに笑いかけるような。そんな顔をしてる。
ディーターの内に潜む狂気は、はっきりと明示されていないと言えない事もないし、まあ無視して非常にスタンダードな戦争映画、もしくは現実を基にした物語として観る事も全然可能。ただ、そしたら多分つまんない映画って事になると思う。
これが例えば「花男」なら。
良い話だ!花男良かったね!茂雄良かったね!と感動してる人の隣で「でもこの花男ってさ、考えてみたら異常者じゃない?夢を見続けてる大人って怖いよ」
なんて 言おう もんなら
「何て野暮な事を…」
「漫画とリアルを取り違えんなよ ダセー」
「つまんない男」
とあらゆる人から総スカンを食らってもおかしくないところ。
そこをこの映画だと
「ふーん 良かったじゃんディーター。」
「…でもこのディーターってさ…(以下略)」
と 言ってみたらばあら不思議。
「…た 確かに。言われてみれば変だね。」
「もっかい見返そうよ。ディーターの目!」
「そういえば虫食ってる時の顔がどことなく怖かったような」
この通り多分大盛り上がり。多分ね。
同じような異常者を扱っていても、同じようなテーマを掲げていても、作品の正しい受け取り方、楽しみ方はそれぞれ違うんだね。という事で。まあ作った人の一番言いたい事が違ったり育って来た環境が違ったりするんでしょう。
あと多分「戦場からの~」にはハリウッド的戦争映画に対するおちょくりが多分に含まれているよね。
あと、あれだ。
ディーターには茂雄がいないんだな。
保護者の付いてない夢追い人=狂人という事か…
ともあれ楽しみました。
是非皆さんもディーターの狂気に満ちた目を確認してみて下さい。オススメです!
まあ、ディーターって実在の人物らしいんですけどね…
狂人て!(自分に)
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