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くしゃみしたらヘッドホンはずれた
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いやーやっと見たやっと見た。
怪獣映画としてはかなりの異色だけど、どっから見てもいつも通りのポン・ジュノ映画。怪獣という、いわば映画ジャンル究極の色物(言い過ぎ)に取り組んでもなお自分のカラーを失わないポン・ジュノ恐るべし。

さてあらすじ。

とある手術室で、欧米人の医者と韓国人の助手らしき若者が会話をしている。
医者は棚に並ぶ古い薬の瓶に埃が溜まっているのが許せない。

「直ちに捨てろ。今すぐにだ」
「しかし先生、毒薬を捨てるには特別な処理が」
「水道に流してしまえば良い」
「…そんな事をしたら漢江に毒薬が流れ込んでしまう」
「漢江は広い川だ。きっと許してくれるさ。」


漢江で正体不明の巨大な生物が出現するのはその数日後のことであった。


主人公は娘を化け物に殺された男とその家族である。集団葬の最中に「化け物と接触した者」として病院に強制搬送された先で、父親の携帯に化け物に食い殺された筈の娘から電話がかかってくる。
娘を助ける為に病院から脱走する父親と家族たち。彼らは化け物と接触したことから、人間に害をもたらすウイルスの保菌者として政府から追われるはめになりながらも、娘の居場所=化け物の根城を探して街をさまよい始めるのだった。



もっと早く観ておけば良かった、と思う反面、ポン・ジュノという監督とその作品性にある程度慣れていなかったら単に「妙な映画だな」で終わっていたような気もするので、まあ適当なタイミングだったのかもしれないとも思う。
今まで観なかったのは、ひとえに「怪獣映画」としてひとくくりにしていたからなんだけども、最初の五分でその認識が間違っていたと分かる。


英語で交わされる医者達の会話や、突如現れた化け物の影に餌を投げる人々。集団葬の最中に「車を停めた人、移動させて下さい!」と叫ぶスタッフ、そしてその声に従う遺族。あらゆるピースが虚構の世界におけるいびつなリアルをかたちどる。


中でも私が好きなのは、父親が見る夢の中で前触れなく娘が家に戻ってくるところと、化け物の持つウイルスに感染している脱走者に風邪の症状が見られた、という報道を見ている歩行者たちのシーン。前者には幼く弱いものに対する大人たちのいたわり、愛みたいなものが滲み出ていて、逆に後者には世間に対する悪意があって良かった。笑った。


虚構である以上それはリアルに似て非なるものであり、似て非なるものであるということはどこかの部分に強調がかかっている訳だけども、ポン・ジュノは本質的な人間の愚かさ、滑稽さ、弱さ、あるいは強さが人間の中にある器にゆっくり満ちて行き、やがて溢れ出す瞬間まで。に核を置いて描く向きがある。
「殺人の追憶」では刑事の心にきざした弱さ、「母なる証明」では愚かな母の内に秘めた、ひたむきな愛情からなる狂気を描いていた。
で、この映画でも彼は娘を救うために奔走する父親とその家族を時折極めて愚かしく滑稽に描くんだけど、それが凄くリアル。

悲劇に見舞われた人物が始終暗い顔をして悲しみに沈んでいる風に描かれていたとしたら、それは退屈な映画だと思う。
感情に身を浸しきれないからこそ人間は悲しいのだ。死ぬほど悲しい事があってもお腹は空くし、幸せの絶頂で、その幸せがいつか終わることを恐れ始める人間もいる。
そういう、いわば気持ちと身体、感情と思考の間に生じる隙間をポン・ジュノは極めて喜劇的に描く。
圧倒的な、抗いようのない恐怖とそれに振り回される人々を、独特の毒とユーモアを交えて映像化する。

ポン・ジュノの映画を何本か観て私が思うのは、彼が描くのはあくまで翻弄される人間であり、事件そのものや状況は感情と行動を浮かび上がらせるツールでしかないということだ。
本作においてのそれは、題名になっている怪物である。

そもそも彼は違法に漢江へ垂れ流された劇薬が生んだ怪物であり、言わば人災である。
怪物そのものを描く映画であれば、その出生における悲劇性、人の業などに焦点をあてて、ともすれば環境問題的方向にも引っ張って行こうと思えば行けない事もなさそうな気がするが、この監督は恐らくそんな事には全く興味が無いのだろう。

人々は怪物の生まれた理由や人を襲う目的など全く知らずに殺されて行く。その内に限られた何人かの人間が、唐突に訪れた恐怖に理由をつけようとする。


何故なら恐怖は常に理由が分からないからこその恐怖なのであって、理由があればたちまち人々の恐怖は減ずるからだ。


人は皆、恐怖の前には愚かである。
その愚かな人々の思念や行動が絡まり合い、様々な喜劇や悲劇を生んでいく。
時には英雄譚をさえ。(ホームレス超かっけー)


生の感情てんこもり。傑作。見るべし!
オススメ!


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膿を出すように愛せ 「母なる証明」
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